文化事業レポート

劇場セミナー 『幕が上がる、その前に』― 創造の舞台裏から劇場を探る ―Vol.02 ゲスト 小池 修一郎 氏(演出家)

左から戸部和久氏・小池修一郎氏・中井美穂氏。
本番中のステージと客席の様子。舞台ファンから劇場関係者まで熱心に聞き入る方たちで満席。
ステージの様子。小池氏は自身の宝塚でのキャリアを、タカラジェンヌが使う呼び方にならい「研50」と紹介。
ゲスト 小池修一郎氏
ホスト 中井美穂氏
ホスト 戸部和久氏
左から戸部和久氏・小池修一郎氏・中井美穂氏。のサムネイル
本番中のステージと客席の様子。舞台ファンから劇場関係者まで熱心に聞き入る方たちで満席。のサムネイル
ステージの様子。小池氏は自身の宝塚でのキャリアを、タカラジェンヌが使う呼び方にならい「研50」と紹介。のサムネイル
ゲスト 小池修一郎氏のサムネイル
ホスト 中井美穂氏のサムネイル
ホスト 戸部和久氏のサムネイル

劇場セミナー 『幕が上がる、その前に』― 創造の舞台裏から劇場を探る ― Vol.02 開催レポート

 

 今回もシアターワークショップが運営を担当するP.O.南青山ホールで、劇場セミナー『幕が上がる、その前に』Vol.02が開かれました。当日はあいにくの空模様だったにもかかわらず客席は満席で、代表の伊東が通路に立って空席を案内するほどのにぎわいでした。まるで小劇場のような光景が広がり、あちこちで交わされる会話からは「今日はどんな話が聞けるのだろう」という期待が伝わってきました。

 

 今回のテーマは「劇場が作品を育てる、作品が劇場を育てる」。ゲストは、宝塚歌劇団で数多くの作品を手がけ、現在は特別顧問を務める小池修一郎氏。ホストは前回に続き、歌舞伎の脚本・演出を手がける戸部和久氏と、観客の視点から劇場を愛する中井美穂氏です。小池氏は自身の宝塚でのキャリアを、タカラジェンヌが使う呼び方にならって「研50」と紹介し、笑いを交えながら会場の空気を一気にやわらげていました。

 

 最初に触れられたのは歌舞伎の劇場と宝塚の劇場の共通点。宝塚大劇場が早くから廻り舞台や迫りを備えていたことを挙げ、「歌舞伎の劇場を参考にした部分は確かにある」と小池氏は話します。さらに、旧金毘羅大芝居(金丸座)を見学した際のエピソードも語られ、人力で盆を回す仕組みや、灯りを工夫して舞台を暗くしていた昔の上演環境など、時代が変わっても魅せるための工夫を続ける姿勢こそが劇場人の本質なのだと感じさせられました。

 一方で小池氏は、近年は劇場ごとの機構を前提にした作品づくりが難しくなっている現状にも触れました。全国を巡る公演では劇場ごとに条件が異なるため、どこでも上演できる持ち込み型の舞台づくりが増えているというのです。作品の巡業の仕方が、劇場の使われ方そのものを変えていくという視点が示されました。

宝塚の上演時間の厳密さについても話題が広がります。芝居とショーの時間配分、休憩、マチネとソワレ間の段取りなど。限られた時間の中で転換を成立させるため、台本や演出をどう組み立てるか。「転換が間に合わないから何か足す、では作品が痩せる。だから必然に変える工夫が必要」という言葉には、技術と演出が密接につながっている実感がこもっていました。

 

 戸部氏がミュージカル『エリザベート』宝塚版の一場面を挙げ、盆回しやスモークの使い方を尋ねると、小池氏は仕掛けの魅せ方を丁寧に解説しました。「ベッドが沈んだ」と感じるのは、煙と転換の重なりがそう錯覚させるためだと明かされ、会場からは驚きの声が上がりました。危険な仕掛けを用いているわけではなく、視線と感情の流れを組み立てることで記憶に残る瞬間が生まれるという話は、舞台の魔法の裏側をのぞくような面白さがありました。

舞台機構の現場でのリアルな工夫にも話題が及びます。装置が動けば音が出る。迫りの駆動音が目立つ場面では、動かすタイミングを少し早めたり、音楽やセリフとの重なりを調整し、観客の集中が途切れないようにする。何秒で上がるか、どの瞬間に動かすか。その細かな判断の積み重ねが演出の質を左右するという言葉には、舞台づくりの奥深さがにじんでいました。

 ドライアイスの話題では、スモークを濃く出すと雰囲気は高まる一方、劇場のつくりによっては二酸化炭素がたまりやすく、安全面の配慮が欠かせないことも語られます。オーケストラピットの有無や客席前方の空気の流れなど、劇場ごとの条件を読みながら表現を調整する必要がある。劇場の条件が演出を形づくり、作品が求める表現が劇場の運用に工夫を促す。その双方向の関係が、音やスモークといった身近な演出を通して鮮やかに浮かび上がりました。照明機材の進歩についての話も印象的でした。ピンスポットでは届かなかった高さにいる人物を、初めてムービングライトで照らした瞬間、裏方も演者も思わずどよめいたというエピソードは、新しい技術が表現の前提を変えていくことを実感させるものでした。

 

 セミナーの終盤、小池氏は自身の劇場にまつわる原体験を語ります。若い頃に初めて帝劇や日生劇場を訪れた時の感動は今でも鮮やかに残っているといいます。しかし、演出家としていざ憧れの劇場と向き合うと、「壁が明るいと照明が効きづらい」といったような別の現実が見えてきたそうです。初代パルコ劇場が黒い壁を採用したことの画期性にも触れ、客席環境が観客を舞台に集中させ、効果的に演出効果を生む大切な要素であることが浮き彫りとなりました。

 「今後どんな劇場でやってみたいか」という問いからは、500600席規模の劇場が持つ魅力の話題に発展。客席との距離が近いことで奥行きの見え方が変わり、同じ装置でも輪郭がはっきりする。大がかりな仕掛けがなくても、劇場そのものが作品の密度を高めてくれるという実感が語られました。宝塚バウホール、銀河劇場、世田谷パブリックシアター、休館中のシアターコクーン、旧新神戸オリエンタル劇場などの名が挙がる中、特に印象的だったのが大阪にかつてあった「中座」だと小池氏はいいます。中座では「別の劇場で上演した同じ道具でも見栄えが変わる」という言葉が象徴的で、客席との距離が近い劇場では動きが手に取るように分かるだけでなく、立ち姿や間の取り方まで届き方が変わり、装置や仕掛けを足さなくても内容が何割も濃く感じられるという話は、「劇場が作品を育てる」というテーマをまさに体現していました。

 

そして視線は未来へと向けられます。「小池氏が宝塚歌劇団で手がけた作品を歌舞伎座で上演したら」という戸部氏のアイデアに、小池氏も「和ものにしてやれたなら」と笑いながら応じました。この夜に語られてきた「場所が変われば作品の見え方も変わる」という実感がその場の空気として自然に広がっていきました。歌舞伎座で小池作品が上演される光景を思い浮かべながら、劇場と作品の関係が未来へ向かっていく瞬間でもありました。

最後に中井氏は、「今日の話をここで終わらせないために」と、ご来場の皆さまに向けて観劇の際に舞台機構に少しだけ目を向けてみることを提案しました。「バトンや盆の動きなど、舞台を支える仕組みに気づくだけで、いつもの観劇が少し違って見えるはず」と語りました。戸部氏も、今日の話が自身の創作に生かされていく手応えを語り、「皆さんと一緒に学ぶ場」であることを示して締めくくりました。拍手の余韻が残る中、次回の劇場セミナーへの期待がふくらむ、熱い一夜となりました。

 

 

『幕が上がる、その前に』Vol.02を終えて

 

 劇場は作品を受け止める場所であると同時に、作品によって使われ方や見え方が変わっていく場所でもあります。Vol.02では、小池修一郎氏の豊富な経験をもとに、舞台装置の動きや転換の工夫、時間の使い方、安全への配慮、照明の効果、そして客席の環境など、舞台づくりに欠かせないさまざまな要素が、観客の体験とどうつながっているのか、具体的に語られました。

 劇場に関わる方には日々の判断や創作のヒントを、観劇が好きな方には新しい視点を、建築や都市に携わる方には「空間が体験をつくる」という気づきを。それぞれが自分の立場から持ち帰れるものがある時間になったのではないでしょうか。

 これからも本シリーズでは、劇場と作品のあいだにある現場の声に耳を傾けながら、劇場の未来を一緒に考えていきます。

イベント概要

日時

2026年4月10日(金)

場所
出演者

ゲスト:小池修一郎氏(演出家)

ホスト:戸部和久氏(演出・脚本家)、中井美穂氏(フリーアナウンサー)

参加費

3,500円(税込)

ジャンル

  • セミナー
  • 劇場セミナー
  • トークショー

業務領域

  • 主催
  • 企画
  • 制作
  • 運営
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