『劇場建築セミナー』~劇場建築家、自作を語る~Vol.01 開催レポート
2026年度から、劇場の未来を考えていく『劇場セミナー』の新シリーズとして『劇場建築セミナー』が始まりました。毎回、劇場設計の豊かな実績を持つ建築家をゲストにお迎えし、劇場に込めた思いや設計のポイントについて語っていただき、現代日本の劇場建築の状況を知り、未来の劇場が担う役割やミッションについて、参加者のみなさんと共に考えていくことを目的としています。
記念すべきVol.01は、香山建築研究所の会長の香山壽夫氏、代表取締役所長の長谷川祥久氏をゲストにお迎えし、これまでの、そしてこれからの劇場づくりについて存分に語っていただきました。
劇場には“人をひとつに集める”建築の本質がよく表れている
これまで数多くの建築設計を手掛けてきた香山氏ですが、セミナーの冒頭に、「劇場建築はとりわけ面白い」と切り出しました。その理由として、劇場には“建築の本質”がよく表れていることを挙げました。文学者・サミュエル・ジョンソンの、“Sir, we are a nest of singing birds.”という言葉を示したうえで、人間は本来、他者と集まって共に何かをしたい生き物であり、建築の本質は「人々をひとつの場に集める」ことにあると述べました。
“人を集める”建築の歴史は、都市が形成され始めた頃にまでさかのぼります。イギリスのストーンヘンジにはじまり、人を集める建築は、時代とともに、一つの形として”劇場”という名を得て様々な形態へと展開していきました。16世紀末に建設されたロンドンのスワン座は、劇場というよりまちの広場に近い役割を担っており、これは日本の江戸期の芝居小屋にも共通するとの考えを示しました。芝居町の中心に位置していた芝居小屋では、内部だけでなく正面にも多くの人が集い、賑わいが生まれていたことから、まちと芝居小屋は深いつながりをもっていたことがうかがえます。
劇場に流れこむ都市、都市に流れ出す劇場
続いて、香山氏は今日の劇場設計における“劇場と都市との関係性”について語りました。人が集まるという建築の本質を踏まえると、「劇場に都市が流れこみ、都市に劇場が流れ出す力を感じられるのが、劇場を設計する面白さである」とし、会場のスクリーンには香山氏が描いたスケッチが投影され、そこには、都市と劇場がさまざまな機能を介してつながる様子が示されました。建築家は、その関係性を形にしていくことが役割であるといいます。
ここで、香山氏は自身の手掛けた劇場建築を振り返りました。
彩の国さいたま芸術劇場(1994年)や長久手町文化の家(1997年)、日田市民文化会館(2007年)など、代表的な劇場が紹介されました。香山氏はこれらの劇場に、建物内を貫く通路や、複数の劇場をつなぐ共通ロビー、前庭など、催事が無い日でも人々が自由に行き交うことのできる空間を設けました。劇場を利用する人だけでなく、誰もが自然に立ち寄り、交流が生まれるための工夫が紹介されました。こうした事例を通して、劇場を単なる鑑賞の場ではなく、都市の一部として機能させることの意義について語られました。
舞台と客席の連続性の創出
長谷川氏は香山建築研究所で手掛けてきた劇場建築について触れました。
まず、長谷川氏は、大道芸を観客が囲んで観るような空間を劇場の始まりと捉えており、「それを超える価値を生みだす空間をつくることが自身の目標である」と述べました。まさに劇場という場を建築でつくる意義といえます。
劇場のファサードのつくり方について、綿密なスタディを重ねたことや、劇場の“中”における工夫について、具体的な事例を交えながら、これまでの劇場設計にまつわるエピソードが紹介されました。
長久手町文化の家(1997年)や可児市文化創造センターala(2002年)などでは、柱や壁、手摺、客席などを何重にも重ね、舞台を包み込むようなデザインを取り入れたとのこと。また、日田市民文化会館(2007年)や神奈川芸術劇場 KAAT(2010年)などでは、客席の勾配や上階席を積層させる工夫することで、舞台をより身近に感じられる空間を実現しました。このように、舞台と客席の連続性を生み出すために、細部にわたる様々な工夫を凝らしていることがうかがえました。
建築は改修することで生き続けられる
東京芸術劇場(2012年)やロームシアター京都(2015年)など、これまでに手掛けた改修事例についても紹介がありました。
香山氏は、自分の建築作品について、「将来直す必要があれば全然直してもらって構わない」と話しており、その言葉が特に印象的でした。建築は改修することで生き続けられるものであり、改修という行為に対して抵抗は無いが、原設計に尊敬の意をもつことが重要であるとの考えが示されました。
建築の価値は完成した瞬間に定まるのではなく、人々によって使われ、手を加えられながら次の時代へと受け継いでいく。その姿勢に、建築を残すことの本質が表れているように感じました。
建築をつくることは本当に楽しくやりがいがある
最後に、長谷川氏は「劇場設計においては、舞台に実際に立っている人や考えている人に直接話を聞くことが糧になっており、今後もずっと続けていきたい」と締めくくりました。
香山氏は、「建築をつくることは本当に楽しくやりがいがあることで、これは昔も同じだったに違いない――その一方で、現代では徐々にその価値が形式や規則へと移行してしまっている。みんなで手を動かして汗を流して建築をつくり続けられれば、まだまだ面白いことができると思う」という言葉で結びました。
劇場建築は単なる建物ではなく、人と人、そして人と都市をつなぐ場であり、また多くの人との対話や協働によって形づくられている。そして、その過程自体が大きな魅力なのだという理解を深める場となりました。
『劇場建築セミナー』Vol.01を終えて、Vol.02では劇場建築についてどのような新たな発見があるのか、期待が高まりました。