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【ご報告】渋谷キャスト トークイベン
「Urban Catalyst Vol.6 ブルックリン・ウェイ・オブ・ライフ」

Urban Catalyst Vol.6
「ブルックリン・ウェイ・オブ・ライフ」

先日12/5に行われた Urban Catalyst Vol.6のリポートです。
ブルックリン在住の佐久間裕美子氏に、ニューヨークの今についてお伺いしました。

カタリスト:佐久間裕美子氏
ニューヨーク在住ライター アメリカ在住22年。
Sakumag.com主宰。著書に「ヒップな生活革命」(朝日出版社)、「ピンヒールははかない」(幻冬舎)。
この10月、はじめてのzine「Kings of BKK / Queens of BKK」を刊行した。
12月には1年間の日記をまとめたMy Little New York Times(numabooks)を上梓する。

自己紹介・私の仕事

佐久間裕美子と申します。
私は98年からNYに住んでいます。その前の2年間はNYの隣のコネチカット州の大学院に行きまして98年にNYに引っ越しをし、2002年の終わりまで会社員生活をし、2003年から独立してフリーライターになりました。どちらかというと、人に会ってインタビュー雑誌などのライターをしていました。アメリカでイケている場所や人を紹介するという事を、長くやってきました。
普段、ブルータスやポパイといった雑誌などで、 新しいところを紹介してほしいという要望に応える仕事をこなしているうちに、ファッションとか食べ物とか何か新しい事の点と線を繋いだら、新しい流れが見えてくるのではないかという話になり「本を書きませんか?」というお話をいただいきました。それをまとめたのが 「ヒップな生活革命」です。

そして今回「My Little New York Times」を12月出版させていただくことになりました。
出版元のNUMABOOKSは内沼晋太郎さん主催です。彼は、「本の逆襲」という本を書いていらっしゃいます。「普通の出版社ではやらない事をしませんか?」という事で声を掛けていただきました。この時、「何ができるか?私は継続した執筆がいままでなく、日記など書いたことがない」という話になり、逆にそれをしてみよう!という話になりました。

私の誕生日は7月5日朝です。アメリカ時間では、その日は、4日の独立記念日です。
それもあって、私はドナルドトランプが、大統領になった事をものすごくパーソナルに受け止めた人間です。実際、NYで生きていくと、彼が大統領になって変わった事を日々感じるので、書いてみようと思いました。自分の気持ちだけを書いてもしょうがないので、少し世の中の動きと繋げながら、備忘録を毎日つけるという事を自分のWEBサイトで連載し、それを今回出版します。大手の出版社さんだと、多くの人を支える構造になっていて、著者としても少ししか関われなかったりする事があるのですが、インディペンデントの出版社とあえて組んだ事で、結構面白いことがいろいろありました。スタッフと汗と涙を流してかかわったので、もしよかったら読んで下さい。

私の住んでいるN.Y のブルックリンカルチャー

前置きが長くなりましたが、私はNYのグリーンポイントというところに住んでいます。
もともとはポーランド移民が住んでいたところです。
何故あえて、グリーンポイントに引っ越ししたかというと、それまでマンハッタンに何年か居ましたが、そっちの方が面白いと思ったのと同時に、友達も移動したからです。
自分も、若い頃には感じなかった高層ビルなどに閉塞感も感じてきて、興味が変わってきました。もともとオルタナティブなものが好きでしたが、メインストリームの雑誌の仕事も、取材がブルックリン方面になってきました。そして、ご縁があって、今の家に入れたので引っ越ししました。
同じNYシティでも、マンハッタンとは全然違うところに引っ越すという結果になりました。
住んでみて、先にマイナスを言うと不便性です。
ヒップなエリアとされるウイリアムズバーグは、すぐマンハッタンに行けますが、グリーンポイントはG線という地下鉄が通っていますが、(クイーンズからブルックリンに行くもの)で マンハッタンには直接行けません。電車の時間も時刻表通りでないので、時間のロスがあります。
プラス面はオルタナティブ性です。
マンハッタンでは、成立していないけれど、面白いものが見られるという事です。私は、そういうモノの中で、メジャーになるかもしれないものを発見していくのが好きなので、それが自分の家の周りですぐ起きているというのが面白いし、いいなと思います。あとのプラス面は人間関係の温かさみたいなもの。
うちの周りもご近所付き合いがありますし、都会ですが、マンハッタンよりも、病気になったら食材をオファーしあうなどの、温かい人間関係もあります。

「なぜブルックリンカルチャーがそんなにもてはやされたのか?」

よく色々な所で聞かれるのですが、ウイリアムズバーグやブルックリンなどが持てはやされている前の、2008年のリーマンショク(金融危機)以前のイケてる価値観とは、重厚で、豪華なインテリアなどのクラブやレストランに行くこと。そして、服装チェックなどで、入れるか入れないかをジャッジされたり、ホテルのラウンジで、シャンパンを飲む。といったようなバブリーな雰囲気でした。
当時は、私も、この町に置いて貰っているといった疎外感がある気分になっていました。
ですが、金融危機が起きてからは、景気が悪くなり、同時に治安も悪くなるようでした。それまでのピカピカした価値観が崩れ、リストラになった自分の周りのクリエイターやデザイナーなどが、自分の周りで、ちょっとずつそれぞれで、出来ることを始めました。
これは「ヒップな生活革命」で書いたような事です。

皆が、今まであるリソースで何かを小さく始め、一般の消費者もそれを喜んで受け入れ始めました。革命といったら言い過ぎかもしれませんが、そういった消費者の価値観の変化も、かなり大きいです。
例えば、
移動型野外フードマーケット「スモーガスバーグ」

フリーマーケットの傍らで食べ物をつくっていたら、どんどんお客を呼び、列などを作る程人気になり、作り手も増え、今では一大観光名所となっています。
大量生産で、どこかの国で作っているよりも作り手の顔が見えて、温もりのある物の方がいいねといった価値観が出てきました。

また、インターネットが発達したお陰で、プラスマージンを外して、直接的にお客様と繋がるようなブランドが、どんどん増えてきました。この頃出てきたブランドには、生き残れなかったものも多くありますが、新しい流れや形を作り出したのではないかと思っています。このような事をまとめて私は、「文化のブルックリン化」と呼んでいます。

クラフト文化、いわゆる手作りマーケットなどは、日本でもアメリカでも以前からありましたが、これが、消費文化として、無視できないような規模になってきました。

その背景には、バブルがはじけて、分かりやすい豪華なものってなんか違和感あるよね、といったムードの変化があったのではないかと思います。

そのあと、流れとして、ジェントリフィケーションGentrification (日本語では高級化と訳される)
が起きています。グリーンポイントは、今はかなり高級なマンションのようなものが建ち始め、都市開発されています。今では家賃も以前の2倍の家賃です。もともと住んでいる人を追い出すことは法律上無く、値上がり率も国が決めている範囲以内ではあがりません。ですが、お金欲しさに、追い出そうとする、嫌がらせなどもあります。ジェントリフィケーションにより、人口は2万から3万になるといわれて、自分もいつまで住めるかなと思っています。こうして住む人が増えるが、アーティストなどは、また新天地を求めて人口の流出ということも起こりえます。

ブルックリンならではのプラットフォームコーポラティビズム
Platform Cooperativism

ワイヤードでも取材で掲載しましたが、今のプラットフォーム経済の中で、いかにして生きていくか
Platform Cooperativism(プラットフォームコーポラティビズム)
(ニュースクールというドイツ人研究者の言葉)という動きがあります。
プラットフォームを使い、自分達で助け合う組合的なもので何かしよう!と、プロジェクトをするお手伝いをするものです。
例としてこちらのサイトがあります。
●スペーシャス https://www.spacious.com
というスタートアップ企業がコーワーキングスペースとして
日中空いている飲食店などのスペースを提供するサイトを運営しています。

●アップアンドゴー https://www.upandgo.coop
NYでは、お掃除を人に頼む事が多いです。
お掃除料金体系は1部屋幾らという感じでしたが、ネットワーク化することで
料金やスケジュールなどをコントロールし、掃除する人も取り分が増えています。

ブルックリン生まれの企業・施設

また、ブルックリンは、大きな資本より個人商店を大切にしようとしているエリアです。
古いスタバやマクドナルドはありますが、流行っていません。そんな中で、大きくなった企業や施設があります。先程のプラットフォーム紹介にもつながりますが、ご紹介します。
●キックスターター  https://www.kickstarter.com 
クリエイターがプロジェクトを実現するための資金を世界中から募ることができる、世界最大のファンディングプラットフォーム。ある程度大きい会社に成長しました。
ですが、Bコープ(公益企業)なので、株主の代わりに、公益を公言しIPOもしない宣言をしています。会社の規模はブルックリンの古い建物の社屋の規模を維持するとこの事です。アイデアを集め、コミュニティの為の活動をたくさんしていて、共感が持てます。

●エッシー https://www.etsy.com
クラフトとビンテージのマーケットプレイスです。
こちらの企業も公益企業として>公言した事もあったのですが、やめて、外部からの資本を受けたりしていました。結果として、創業者は締め出されて、今、全く違う会社になってしまいました。

●多目的複合スペース A/D/O https://a-d-o.com
車メーカーのMINIが出資しており、カフェエリアでは、お金もかからずスペースを使って仕事ができて、3Dプリンターなども格安で提供されています。ワーキングエリアでは、厳しい審査を経たクリエイティブな人達に安い家賃で場を提供しています。
また、アクセレレーター(accelerator)スペースもあり、(審査を経たら)A/D/Oの人達が経営のアドバイスや投資もしてくれるスペースもあります。
私はNY視察のお手伝いをする事がありますが、こちらを日本の企業の方が視察した時は、皆さんびっくりされます。
経営側(=MINI)にとってこれが良い事かどうかが理解できない・わからないとおっしゃいます。
確かに、単なるコミュニティ活動です。でもMINIは勝算があると思い投資しています。MINIは車の会社ですが、今後は、都市型の生活を応援する会社としてやっていくらしく、その中で、ブルックリンを代表するようなデザイナーやアーティスト達と一番最初に繋がれる。という事にメリットを見出しているようです。こちらは数値化しにくい事ですね。アーティスト達の制作や交流に有益なので、今では、コミュニティに大変感謝されています。このように、A/D/Oは、コミュニティと企業の新しい形です。
皆さんにもNYに行くチャンスがあったら是非行ってみてください。

NY人口の流出 /他の街へ

先程 NYのクリエイターなどの流出の話を少ししましたが、その人達が行った先は、
●L.Aのシルバーレイク
作り手さん達が移住して、クオリティ・オブ・ライフはこちらの方がいいよと言っている地域です。

●NY市北部のハドソンバレー
アーティスト達が移住しています。農村部なので従来は保守的なエリアですが、このような人が移住する事によって、だんだんプログレッシブに、じわじわとNY的な価値観になっていくといった事が起きています。

●デトロイト
以前はFORDの車の都市として知られていますよね。アメ車が売れなくなり、車業界が不振になり1950年代がピークで、かなり人口も減少しました。そして2013年に、デトロイト市が、破産法を申請しました。最近、アマゾンが、オフィスの場所を検討していた時、公募で応募し、活性化を期待していましたが、結局アマゾンはNYになりました。残念でしたが、それでも現在、アーティスト達の参入から新しい流れが出来、古い価値観も変化してきて、大変面白い場所も増えています。

個人的に私は、今、デトロイトに夢中になっています。

駆け足になってしまいましたが、こちらで時間になりました。ありがとうございました。

質疑応答

Q:
" NY"と"渋谷"の共通点と、違いを佐久間さんの感じる形でお願いします。
A:
日本・東京では、何かを始めるというハードルは確かに高いです。それにより小さな作り手さんは、できることが少ないと思ってしまいがちですし、日本では「これはルールですから」と言われる事が多いです。でも探すと大きな組織にいる方も小さなところの味方になっているところもあります。違うクラウド同士が繋がるという流れになってきている気がして私は、非常に希望を持っています。
Q:
お話されているアーティスト達とはどんな人たちなのでしょうか。
外国や地方の人達なのでしょうか?大学生なども関係しているのでしょうか
A:
私がNYに20年いて、飽きない理由としては、アートだけでなく食とか映画とかなんに対しても、とにかく世界で1番を目指して来る人が多いので、外国人も沢山いて、混沌としています。
しかも、NYにおいては、意外にお金の無いアーティストなどの動きが重要なのです。
アーティストがまず安い制作場を探しエリアを引っ越し→人が増える事によって→コーヒーショップなどができる→洋服屋さんなども増える。
この相乗効果で、街が話題になるといったことになります。
最後には家賃が上がり、最後にはアーティスト達が追い出されたりしてしまいがちですが。。
今ですと、NYで暮らす大学生に関しては、よほどお金が無いといろいろ難しいかもしれません。そもそもNYの大学に行ける人は、わりと、特権階級だと思います。
ただ世代的には、購買層として大きな影響をもつ、ミレニアム世代ですので、企業達はその世代をなんとか取り込もうとしているのは事実です。