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【ご報告】渋谷キャスト トークイベント「Urban Catalyst Vol.3ファッションビジネスにおける渋谷の役割と、未来の店舗のあり方」

Urban Catalyst Vol.3 ファッションビジネスにおける渋谷の役割と、未来の店舗のあり方

先日8/1に行われた Urban Catalyst Vol.3のリポートです。

当日は、松下久美さんをインタビュアーに、(株)ナノ・ユニバース代表取締役社長の濱田 博人さんにお話を伺いました。
ECという、街とは対象的なビジネスをどう伸ばしてきたのか、そしてリアル店舗と街との関係について、将来を占うお話が飛び出しました。

濱田 博人氏プロフィール: 
1965年生まれ。1989年大学を卒業後、(株)サンエー・インターナショナルに入社。事業部長、店舗開発部長、執行役員を経て、 サンエーと東京スタイルが経営統合して誕生したTSI ホールディングスの取締役に2013年に就く。
2016年7月に傘下の(株)ナノ・ユニバース代表取締役社長就任。
店舗開発歴が長く、百貨店から駅ビル、SC までさまざまなチャネルに精通。日本ショッピングセンター協会のSC大賞最終選考委員も歴任している。
松下 久美氏 プロフィール:
「日本繊維新聞」の記者、「WWDジャパン」のデスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。
主に「ZARA」「H&M」「ユニクロ」などグローバルSPA企業やセレクトショップなどをカバー。「東京ガールズコレクション」では特別番組の解説や特別ステージのディレクションも担当した。2017年に独立。
著書に「ユニクロ進化論」

“EC化率を上げよう、何%にしよう”と思ったことは一回も無い。

- 濱田さんは渋谷に会社を構えていらっしゃって、長年、店舗開発という視点でも渋谷を見てこられました。また、会社のEC化率も30%を達成しているということで、多角的な視点からこれからの成長戦略なども伺っていければと思います。まず、濱田さん簡単に自己紹介をして頂けますか。

1965年(昭和40年)、東京オリンピックの翌年に九州で生まれまして、中学高校時代は熊本で過ごしました。そのころは日本の経済も右肩上がりの時期で、新人類とかバブル世代とかいろんな呼び名をつけられながら、気が付けば50歳を過ぎていました。
上京後は紆余曲折ありまして、平成元年に、表参道に本社のあるアパレルのサンエー・インターナショナルという会社に入りまして、しばらくボディコンブランドと一緒に過ごしていました。
30歳を過ぎてから、世の中が百貨店からショッピングセンターに流れが変わる頃だったので、会社の方針として新しいチャネル開発ということで、ずっと開発系の仕事をやっていました。
その後、会社が6年前くらいに統合してTSIホールディングスという会社ができたんですけど、そこの初代の取締役として、グループ各社の経営指導や横断的なマーケティングの仕事をしていました。
現在のナノユニバースという会社に社長として招かれて、ちょうど三年目に入ります。

- ナノユニバースはどういう会社なんですか?

ナノユニバースは2002年に設立された会社で、17年目に入ろうとしていますが、現在では売上で270億円、120億円強がECの売上です。一番特筆すべきところは全国の主要都市に店舗がありながらも、どこよりも早くECのプラットフォームに着手して、ZOZOTOWNで一番売上を伸ばした会社というとわかりやすいと思います。現在では42%までEC化率が上がっています。
どうやったらEC化率が上げられるんだろう、ということをよく質問されるんですが、実際、社内ではEC化率を上げよう、何%にしようと指示したことは一回も無いんです。ECとリアルのプロパー店舗の売上って、実はあまり差が無いんです。どっちが勝ってもいいし、何%だったかって、今日の段階で計算すらしていないんです。私はあまのじゃくなのでECが伸びれば伸びるほど、店舗も伸ばしたいと考えます。

- この二年間やってきたことは?

私はアパレルで30年、叩き上げでやってきた知見を活かすということでナノユニバースに来ました。中を全部ひっくり返してみたら、素材もいいし、主要都市に支店もあるし、にっちもさっちも行かないという状況ではなかったです。
初めての年は、現場には「物をいっぱい作りたい」、「これは売れると思います」というビジョンがあったので、「いいよ、好きなように作れば」と伝えました。無責任ながら、「在庫は気にしないで、物を作って売上を作って、デベロッパーの信用を回復してくれ」というオーダーだけしました。売上が上がったことで社内が「行けるんじゃないか」というムードになったことは事実ですね。

渋谷から原宿の間に商品を買わせる

- ロゴも変えられたんですよね。

やっぱりカリスマ創業者が立ち上げたオーナー社長の会社って、得てしてその会社は社長のものなんです。社員は王様のために働くひとたち。会社を背負っているのは社長だけで、現場の人はあまり表に出ない。
前のロゴは、嫌いではなかったんですが、前オーナーが作ったものなので、社員の代表が集まって、BIプロジェクトを立ち上げて、若手社員や広告代理店を巻き込んで、お店の内装も含めて考え、このロゴを作ったんです。

そのメンバーでショッパーのデザインや名刺やユニフォームも変えた上で、アプリ映えするロゴに変えたかったというのもありました。グローバルでいうと、アップルもスターバックスも一流ブランドにはマークがありますから。

将来的には渋谷からグローバルを目指したいし、近い将来モバイルファーストになるのはわかっていて。かつ、社内向けには「会社をみんなのものにしようね」というモチベーションアップのためにBIプロジェクトをやりました。このロゴをみんなで作ったタイミングで、なんとなく、私が社長として社員に認められたのかなあと思います。

- 今回、商品戦略で力を入れたのは?

私自身はマーチャンダイジングにも企画会議にも、ほとんど入ってないんです。ただ、方向性だけははっきりしていて、つまり、みんなに気づいて欲しかったんです。外から見たときに、いいものがいっぱいあったんですよ。でも、社員は自分たちの会社の長所が何で、商品は何に自信が持てるのか、というのが薄かったんです。
それが例えば、この高級布団の東京西川さんとコラボした高級ダウンや、汗じみしないTシャツ。外から来た私からすると宝の山がいっぱいあったんです。顧客が一回りしているから売れないなんてもったいない、もっと自信を持って売ろう!と。
もともと広告は外人モデルを使ってイメージで売っていましたが、実際は素材開発もできるし、ジャパンクオリティとのコラボ商品も作れるし、会社の中にノウハウがあるんです。
私からは「自分たちの一番自信のある商品を積んでくれ。そして後付でいいから戦略を考えてくれ」と言いました。とにかく「ナノユニバースを知らないお客さんに売ってくれ」と。

- アプリのポイントは?

スピード感を実現させることに一年間くらいお金を使いました。
例えばですけど、電車で一駅移動する間にアプリで商品を見ると他者さんのは3~5スタイルしか見られないですが、ナノユニバースのアプリはその5倍くらいが見られます。
相当な量がサクサクと見られるので、せっかちが多い世の中で、渋谷から原宿の間に商品を買わせるというのがコンセプトですね。それぐらいの短時間で決済まで持っていく。…いま作りましたけど(笑)
EC化率を上げるためではなく、顧客の利便性をどうやったら高められるのか、というところに重みを置いているので、ECだけで完結させようとは思わないです。店舗在庫を見ると、この商品がどの店舗にあるか、サイズ、色、全部見られます。

「新宿ルミネに在庫があるならちょっと降りてルミネで見ようかな、でも仕事が押してるからお気に入りに入れておこう」…、待ち合わせの間にふと思い出したら有楽町ルミネからプッシュ通知が来ていて、有楽町ルミネで買ってもらうという感じです。
そのお客さんが「これありますか」とお店に行くと、その場で試着できるんです。
将来的には、売り場ではそのお客さんが近づいてくるのがわかって、試着室に物を用意しておくというところまでやりたいですね。決済もレジでやるのか、登録していたカードでやるのか、その場で持ち帰るのか送るのか選べるとか。将来的に、クラウドファンディング式で受注発注に近づけていければ、値引率ゼロで100%消化になれば、原価率を60%にまで上げられるんです。それはECだけではなくて店舗もあるからできるんです。

神南エリアは世界有数のメンズの聖地になる

渋谷のこれからの街づくりとかカオスな感じに合わせて、ラグジュアリーからストリートまで全部揃うと思うんです。世界中のステータスを上げたいところは、ほぼほぼ出揃うと思います。
そうすると、ファッションが大好きな人は渋谷に集まり、ある種ディズニーランド化すると思います。「メンズのファッションが好きな人は渋谷、神南ばい」みたいな感じですね。
ニューヨークのSOHOなんか目じゃないと思います。日本に来たら行きたいのはディズニーランドです。
メンズのファッション好きは、地方の人も、これから豊かになるアジアの人もどんどん日本に来る、そういう人たちも洋服好きな人たちは渋谷、神南、明治通りに来ると思います。絶対、間違いないですね。それに似合ったステータスのお店を作りたいですね。

ここで、質疑応答へ。来場したディベロッパーの方から質問がありました。

- ECとかネイティブアプリの興味深いお話を伺いました。
僕らは街づくりを標榜しているんですが、濱田さんは街側にどういうことを求めていらっしゃいますか?
-私達は店に対してネガティブではないです。逆に言うと店にどんどん誘導したいですよね。

ディベロッパーさんの街づくりというものに対して、そんなに注文はないのですが、今はみなさん生まれたときから便利な世界で育っているので、待たされることが嫌な人がすごく多いと思うんです。
そうすると、店舗のサービスという概念が変わってくる。
結果、人が介在したほうがお客様にストレスはなくなるのかなという気はします。

AIがいろんなことを決めるようになると、コモディティ化しますよね。人を抱えている会社は逆の目が出ますから。そこに我々がどのように、便利で、ノンストレスな売場づくり、買い方、サービスなどを極めて行くかということだと思います。
ディベロッパーさん全体もそこに対して理解をしてもらうことが重要なのかなと思います。
- リアルの店舗の販売員さんはプライドもあるでしょうし、
ECのほうが比率が高いと、ECでも買うことをモチベーションとして推奨できるんでしょうか?
それはけっこう課題でした。以前に比べると、ネットを見てからお店に来ましたというお客さんがすごく増えていますね。数倍から十倍くらいでしょうか。なので、お店のスタッフも、お客さんがアプリをダウンロードしてくれていたほうが店にとっても便利だとわかってきたので、強く言わなくても店のスタッフがお客様に対してアプリのダウンロードを推奨しています。

あとはやはりプロダクトです。ネットは価格比較購買ですから、ネット比率が上がるほど、価格競争にさらされるんです。「店舗に行って確かめないと信用できない」というお客さんを増やすんです。そういうお客様は「どうぞ確かめてください」とウエルカムですし、そういうものを作っていくことが海外進出だったり、インバウンドの比率を上げることにつながると思ってます。
- 店舗開発もされてきましたし、本社も渋谷ですが、
渋谷はどんな特性のある街だとお考えですか
昭和59年に東京に出てきたんですが、表参道にカルチャーショックを受けて、19歳の時にパルコの向かいの交差点に面した細長い喫茶店で働いていたんです。
大学生のとき、渋谷が好きでセンター街でよくナンパとかしていたんですけど。ウエイターをやりながらよく交差点を見ていました。「やっぱり母ちゃん、東京は都会ばい!」と、そんな状態だった私が渋谷のこと語っちゃっていいのかな(笑)。
渋谷は駅ビル、JR、メトロ、東急がスクランブルスクエアを作ってそこが駅ビルになり、駅はおそらく女性ものが中心になって、一部ラグジュアリーブランドや化粧品などが駅周辺に増えてくる。パルコもホテルに併設した開発で、時を半年くらいずらして立ち上がってくる。そして宮下公園がショッピングモールになる。
この3つの開発が2020年までに全部成立するという恐ろしい街に変貌する中で、私自身は表参道が好きなので「表参道に会社を引っ越そう」なんて言っていたんですが、会社の部門長たちとは、「やっぱり渋谷に残ろうか」という話になっています。
上に公園はできるし、路面店はできるし、ホテルはできるし、そこまでやるかという感じなんですけど、宮下公園から神南エリアは世界有数のメンズの聖地になるでしょうね。